東京地方裁判所 昭和56年(特わ)3554号 判決 1982年4月12日
(被告人の表示)
本店所在地
東京都新宿区新宿五丁目一五番六号
株式会社玉屋商会
(右代表者代表取締役山口利久)
本籍
群馬県吾妻郡中之篠町大字四万三二三番地
住居
東京都新宿区市谷柳町三二番地三
会社役員
山口利久
昭和六年一月二日生
主文
1 被告会社株式会社玉屋商会を罰金三、〇〇〇万円に、被告人山口利久を懲役一年六月にそれぞれ処する。
2 被告人山口利久に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社株式会社玉屋商会は、東京都新宿区新宿五丁目一五番六号(昭和五三年七月五日から昭和五四年七月三一日までは東京都新宿区新宿五丁目一五番九号、昭和五三年七月八日以前は東京都新宿区三光町一四番地)に本店を置き、不動産の売買及びその仲介、貸金業等を目的とする資本金一、〇〇〇万円(昭和五五年五月八日以前は四〇〇万円)の株式会社であり、被告人山口利久は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人山口は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、貸付金利息収入・不動産売上の除外、架空仕入・架空支払手数料の計上等の方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和五二年一〇月一日から同五三年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が五、四四二万四、三〇四円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二八日、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が八七二万九、〇〇二円で納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第二七七号の一)を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額二、二七一万五、八〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ
第二 同年一〇月一日から同五四年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が二億一、六六五万九、九八三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二二日、前記四谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、五二七万〇、三九一円でこれに対する法人税額が三八三万〇、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の二)を提出してそのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億〇、三二八万七、三〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)と右申告税額との差額九、九四五万七、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
(「甲」、「乙」は検察官請求証拠目録の甲、乙の番号を示す。)
判示事実全般につき
一 被告人山口利久の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書七通(乙1ないし7)
一 収税官吏作成の土地重課税調査書(甲22。以下の調査書も収税官吏の作成したもの。)
一 登記官作成の登記簿謄本(甲25)
判示第一の事実(別紙(一)修正損益計算書の公表金額を含む。)につき
一 押収してある法人税確定申告書(53/9期)一袋(昭和五七年押第二七七号の一)
判示第二の事実(別紙(二)修正損益計算書の公表金額を含む。)につき
一 押収してある法人税確定申告書(54/9期)一袋(前同押号の二)
別紙(一)、(二)(修正損益計算書)の勘定科目中「不動産売上高」((一)、(二)の各<1>)につき
一 売上除外額調査書(甲1)
同「商品仕入高」((一)の<4>、(二)の<6>)につき
一 仕入(簿外仕入及び架空水増仕入)調査書(甲2)
同「期首たな卸高」(ただし(二)の<5>のみ)、「期末たな卸高」((一)の<5>、(二)の<7>)につき
一 たな卸高調査書(甲3)
同「広告宣伝費」(ただし(二)の<10>のみ)につき
一 架空広告宣伝費調査書(甲4)
同「租税公課」((一)の<18>、(二)の<20>)につき
一 租税公課(簿外)調査書(甲5)
同「接待交際費」((一)の<19>、(二)の21)につき
一 簿外接待交際費調査書(甲6)
同「支払手数料」((一)の<24>、(二)の<26>)につき
一 支払手数料調査書(甲8)
一 簿外支払手数料調査書(甲9)
一 架空支払手数料調査書(甲10)
同「雑費」(ただし(二)の<28>のみ)につき
一 雑費(簿外)調査書(甲11)
同「利息収入」((一)の<27>、(二)の<29>)につき
一 利息収入(貸金)調査書二通(甲12、13)
同「受取利息」((一)の<28>、(二)の<30>)につき
一 受取利息(預金)調査書(甲14)
同「雑収入」((一)の<30>、(二)の<33>)につき
一 雑収入調査書(甲15)
同「支払利息」((一)の<31>、(二)の<34>)につき
一 支払利息調査書(甲16)
同「貸倒償却」((二)の<36>)につき
一 貸倒償却調査書(甲17)
同「債権償却特別勘定」(ただし(二)の<37>のみ)につき
一 債権償却特別勘定調査書(甲18)
同「価格変動準備金繰入額」((二)の<42>)、「繰越欠損金控除額」((二)の<48>)につき
一 四谷税務署長作成の証明書(甲23)
同「交際費損金不算入額」((一)の<39>、(二)の<44>)につき
一 交際費等の損金不算入額調査書(甲7)
同「事業税認定損」((二)の<48>)につき
一 事業税認定損調査書(甲21)
(法令の適用)
1 罰条
(一) 被告会社につき、いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項
(二) 被告人山口につき、いずれも行為時において右改正前の法人税一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による。)
2 刑種の選択
被告人山口につき、いずれも懲役刑選択
3 併合罪の処理
(一) 被告会社につき、刑法四五条前段、四八条二項
(二) 被告人山口につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)
4 刑の執行猶予
被告人山口につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、判示のとおり、被告会社において昭和五三年九月期の事業年度で五、四〇〇万円余の所得があったのに八七〇万円余の欠損申告をなし、同五四年九月期の事業年度で二億一、六〇〇万円余の所得があったのに一、五二〇万円余の所得しか申告せず、合計一億二、〇〇〇万円余の法人税をほ脱したという事案であり、その申告率が著しく低いうえ、よって生じたほ脱の結果も高額である。また、本件に至る経緯ないし動機をみても、被告人山口は、かつて税務職員として勤務した経験を持ちながら、貸金業による収入を過少に申告するなどの方法により財産の蓄積を図っており、本件の前年における税務調査の際、申告除外した貸金業収入が発覚しなかったところから、本件においてこれらの収入を秘匿し、併せて過去の利息収入のほ脱発覚を防ごうとしたものであり、更に、ほ脱行為の態様をみても、被告人山口はもともと利益を隠ぺいする意図のもとに証憑書類を偽造しているのみならず、隠ぺいの対象についても、不動産取引の相当部分を当初から除外したのをはじめ、手びろく営む貸金業により得た収入のほぼ全額を秘匿し、あるいは高額の架空経費を計上しているのであって、その計画性は顕著と認められ、犯情は悪質というべきである。
しかし、その一方において、被告人山口は本件の発覚後直ちにその非を悟り、本件の捜査及び公判を通じて終始犯罪事実を認め、深刻に反省悔悟しているほか、被告会社の会計処理の態勢を改善し、隠ぺい収入の相当部分が生じていた貸金業を廃止していること、被告会社は本件二事業年度分の所得につき修正申告したうえ地方税及び附帯税も含め納税をほぼ了していること、被告会社はその後相当の貸倒れが生じたことや業界の不況等により収益が思わしくない現況にあること、被告人山口は被告会社の代表者であると共に唯一の宅地建物取引主任者として被告会社運営の要たる地位にあって、会社を維持・継続させ、従業員及びその妻子の生活を支える責任のある立場にあること、被告人山口には禁錮以上の刑に処せられた前科がないこと、以上のような被告人らに有利な情状も考慮し、当裁判所は、被告人らの刑責を果たさせるため主文掲記の刑を量定した。
(求刑 被告会社に対し罰金四、五〇〇万円、被告人山口に対し懲役一年六月)
よって、主文のとおり判決する。
出席検察官 江川功
弁護人 三森淳(主任)・安藤順一郎・島村芳見
(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 園部秀穗 裁判官松澤智は退官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小泉祐康)
別紙(一) 修正損益計算書
自 昭和52年10月1日
至 昭和53年9月30日
株式会社玉屋商店
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
自 昭和53年10月1日
至 昭和54年9月30日
株式会社玉屋商会
<省略>
別紙(三)
税額計算書
<省略>